ホーム世紀末な???中南米旅行インデックス メキシコ

12/20/1999

魔術的で特別な・・・コヨアカン


「コヨアカンは魔術的で特別な場所なんだ」

観光ガイドではあまり紹介されないこの場所を教えてくれたのは、ベネズエラ人のメル友ヘンリー君だ。

「メキシコの女流画家フリーダ・カーロはこの街に住み、夫でメキシコを代表する壁画画家のディエゴ・リベラと愛をはぐくんだ。そして彼らの友人であり、敵であり、時にフリーダ・カーロの愛人だったロシア革命の闘士トロツキーも、亡命後、この街に住んでいたんだよ」

「コヨアカンには愛と芸術がいきづいている。この街に行くのなら、ゆっくりと午後を過ごすのがいい。それがボクらの旅のやり方なんだ。コーヒーを飲み、銀のフィルターを通して降りそそがれる太陽の光を楽しむのさ…」

学生時代には詩を書いていたという彼は、とろけそうな表現でコヨアカンの魅力を描写してくれた。ヤング・エグゼクティブな彼は、ビジネスで何度もメキシコを訪れ、コヨアカンがすっかり気に入ってしまったという。ま、キザっていえばそれまでだけど、うまいよね、この表現。この調子ならラブレターも上手だろうし、女を口説くのも…。

フリーダ・カーロは障害を背負いながらも自画像などの優れた芸術作品を残した、メキシコを代表する女流画家。非常に魅力的な女性で、会った人は男女を問わず彼女の虜になったという。数え切れないほどの恋の噂が流れたが、そのなかには複数の女性も含まれていた・・・。

「魔術的で特別」。この言葉にとっても弱いわたしは、コヨアカン広場に向かう途中で、すでに舞い上がっていた。何の変哲もないような住宅地にも、「特別な何か」が隠れているような気がしてくる。青、黄色、緑…、鮮やかな原色で塗られたコロニアルスタイルの家々。重みのある木製のドアの向こうに、超現実的な世界が拡がっているのではないか。鉄製の頑丈な枠がはめられ、カーテンで閉ざされた窓の内部には、幻想的な空間があるのではないか。そんな妄想を振り払いながら歩いてたら、道に迷った。

気がつくと、無数の小さな旗がぶら下がっている通りにいた。道の端から端へとひもが渡され、そこに切り絵のような、デザインされた色とりどりの旗がついている。サーモンオレンジの壁、中世風の石造りの建物などに囲まれたその通りは、スペインとコロニアルが混ざりあったふしぎの国の雰囲気・・・。「ここはどこ? わたしはいったい・・・」モードに入りそうになったが、踏みとどまり、地図を取り出してみた。あら、コヨアカン広場からずいぶん離れたところにいるんだわ・・・。「魔術」にかけられたようなので、明日出直すことにした。

次の日、今度は迷わないようにバスに乗った。駅でお巡りさんにバス停を確認し、バスの運転手さんにも行き先を確認し、コヨアカン広場にたどりついた。一見何の変哲もない、メキシコによくある広場のようだったが、タロット占い師がいる。海賊の船長のような黒いアイパッチをしたヒッピー風の男性が、不思議な色の石を並べて売っていたりする。広場の周辺に足を伸ばすと、骨董屋や現代美術系の絵画を売るお店が並んでいた。その中の一軒で、フリーダ・カーロのポストカードを買った。

うっそうとした木々に囲まれた家が建ち並ぶ高級住宅地、すれ違う修道女、大きな垂れ幕がかかった音楽学校の建物。中からフラメンコのステップが聞こえてくる。またしても「魔術的」な感覚に支配されてしまったのか、見るものすべてが、どこかあやしい雰囲気を持っているように感じられてしまう。窓のカーテンを細く開けて、フリーダ・カーロが、こちらをじっと見ているような…。

オレンジ色の夕陽が斜めに街を照らす時間になり、広場に戻るとアクセサリー屋の若い男のコに声を掛けられた。

「どう?メキシコのおみやげを買っていかない?」。

人懐っこく、お喋り好きな彼は、アクセサリーに使われている石について詳しく教えてくれた。彼のお薦めは翡翠だったが、けっこうなお値段だったので、お手ごろな値段のネックレスを買うことにした。マーブルがかった、ちょっと神秘的な深緑色の石がついているが、翡翠ではない。

「この翡翠、モノがいいんだけどなあ」

名残惜しそうに彼が言った。夜はとっぷりと暮れかけていた。そろそろ帰らないと…。メキシコ・シティは、めちゃくちゃ治安が悪いわけではないが、夜のひとり歩きは避けたほうがいい。8時からはテレノベラもあるし・・・。そんなわたしの気持ちも知らずに、彼は明るく言った。

「そうだ!それなら、晩ゴハンをいっしょに食べない? 近くにおいしい中華料理屋があるんだ」

中華料理…。持って生まれたキャラクターか、いつもだいたい、最後はこんなことになる。「魔術的で特別」だったはずのコヨアカンは、なんとも色気のない幕切れとなりました。

<コヨアカンのデータ>
メキシコシティ南部に位置し、骨董品店、画廊などが軒を並べる高級住宅地。フリーダ・カーロ美術館(月曜日休み)、トロツキー博物館など、この地ゆかりの有名人関連名所もある。地下鉄の COYOACAN駅 から歩くと遠いので、バスかタクシーに乗ったほうがいいかも・・・。

 

関連リンク 
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テレノベラ

 


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