ホーム 60日間のラテンな旅行体験記 インデックスキューバ

うつくしいもの、すばらしいものと、そうでないものが混在する
ハートブレイク・ワンダーランド


時間通りに来ないことはわかっていた。でももし置いていかれたら困るので、ちゃんとロビーで待っていた。

40分経過。ホテルの前に大型バスが止まった。バスから降りた細身の女性が、大股でホテルの入口に近づいてくる。入口付近の椅子に座り、出入りする人々すべてをチェックしていたわたしと彼女の目がビッとあった。

「さあ、行きましょう。わたしがガイドのベアトリスよ」

30分ほどバスに乗り、着いたところは国際空港ではなく、「PLAYA BARACOA」という小さな空港だった。ここから飛行機に乗って、カヨ・ラルゴというリゾート地に向かうのだ。

飛行機の機体には「AERO GAVIOTA」と書かれている。第二次世界大戦中に大活躍したような、古いプロペラ機である。なんとなく『翼よ、あれがパリの灯だ』という昔の映画を思い出した。

簡素な待合室でしばらく待つ。室内で待っていてもいいが、外に出ても別に構わない。バス停に置いてあるようなベンチに座って、待つこと15分。プロペラ機はズルズルと動き出し、飛び立ってしまった。

「あれに乗るんじゃなかったの?」

そばにいたガイドのベアトリスに尋ねてみた。

「飛行機は他にもあるから大丈夫よ」

後でわかったことだが、この飛行機は40人乗り。大型バスやミニバスがたくさん到着してしまったので、一機には乗り切れず、分乗したわけだ。

あたりを見回すと、血統のよさそうな犬が走り回っている。本来、キューバ人は動物好きだというが、人間の食べ物も十分とはいえない状態なので、犬はあまり見かけない。見かけたとしても、かなりスリムなタイプが多い。もちろん雑種…。

なのにこの飛行場で走り回っている犬は、よく訓練され動きが機敏、タダ者(タダ犬)じゃない高貴な雰囲気を持っているのだ。そうか、ここは軍の飛行場なのだ。外貨獲得、観光客を輸送するために軍の施設を使い、軍の飛行機を飛ばしているのだろう。

搭乗のときが来た。

ベアトリスが叫ぶ。

「早く乗りなさい。窓がある席に座るのよ。すばらしい景色が見えるわ」

窓がある席? 飛行機の窓は並んでいるもんじゃないの? 窓側に座れっていうことかしら? よくわからなかったが、走った。

座席は通路を挟んで2列づつ、縦に10列づつ並んでいる。合計40席。窓は左右に4個づつ、合計8個。そう、もともと軍の輸送用に作られた飛行機を旅客機に改造して使っているので、窓は少ないのだ。とりあえず窓のある、窓側の席をゲット。隣りにはベアトリスが座った。

「ねえ、この飛行機って作られてからどのくらいかしら? 30年くらい?」

「もう少したってるわ」

ベアトリスが答える。

「40年くらいかしら」

「もうちょっと」

「50年くらい?」

「そこまではいかないと思うけど…」

たぶんわたしの顔には、不安が走ったのだ。

「でもこの飛行機は超安全なのよ。だってパイロットは軍の訓練をみっちり受けたテクニシャンだし、それに…」

と言いながら、ベアトリスは手持ちのノートにパラシュートの絵を描いた。非常時にはパラシュートで脱出すればOKよ、ということだろう。そして彼女は安全を証明するかのように、ゆっくりと目を閉じた。

わたしの不安をよそに、50歳近いプロペラ機はのんびりと低空を飛行する。スチュワーデスがお飲み物とキャンディを配ってくれる。ベアトリスが言った通り、窓からはすばらしくきれいな海が見えた。

古い機械でもこうしてちゃんと機能するのだ。

この飛行機、もちろん冷房はないので、機内はサウナのような暑さである。ついでにいえば決められた時刻表もないので、乗客が集まり次第、飛ぶそうだ。これを「フレキシブルな対応」という。

30分ほどして、目的地カヨ・ラルゴに到着(カヨ・ラルゴとは、「長い珊瑚礁」という意味)。カナダやドイツ、イタリアなどからは直行便もあるという、キューバ有数のリゾート地だ。

心なしかまわりにはイタリア人が増えているような…。

わたしはけっこう「イタ・フェチ」の傾向がある。あの濃い顔で甘いイタリア語を話されちゃうと、身もこころも溶けそうになったりして…。

が、あのとろけそうなイタリア語は、話す人によってはちょっとアホっぽく見えてしまうのも、また真実ではないだろうか? 残念なことに、今日のツアーでいっしょになったイタリア人は後者であった。

「イグアナってなあに?」

ガイドのベアトリスがスケジュールを説明していると、ひとりのイタリア人が大きな声で質問した。今日のツアーではイグアナ見学もするのだが、さてイグアナとは何だろう。ベアトリスがどう説明するか、息を呑んでことの成り行きを見守るツアー客たち(おおげさだけど…)。

「ワニのちっちゃいやつ」

ベアトリスは一言で料理した。うーん、さすが!

今日のスケジュール

<ビーチでのんびり>(2時間半ほど)

<船に乗って、スノーケリングのポイントへ>

<おひるゴハン>
「チキン+ゴハン」or「魚+ごはん」なら追加料金必要なしだが、「大エビ+ゴハン」を望むなら、9ドル払う。

マドリッド在住の老夫婦グループ4人組といっしょに食べる。 男性ふたりは料理や飲み物を運ぶなどこまめに動き回るが、女性ふたりは「おさかなキライ!」「サラダが欲しい」とか、しっかりと注文をつけている。最近の全世界的傾向かしら。

<イグアナ(ワニのちっちゃいやつ)鑑賞>
船でイグアナが400匹ほど生息しているという島へ。小さいのから巨大なのまで、いるわ、いるわ…。彼らは草食なので草や芝生、フルーツなんかを食べていた。「一匹連れて帰りたい」と言ったら、スペイン人たちが本気にした。

イグアナの写真


<ビーチでのんびり>

ふたたびプロペラ機に乗ってハバナへ戻る。空港のバーでは、ラテン+テクノ+ハイエナジーなダンス系音楽がかかっていた。

『天国にいちばん近い島』という映画があったが、カヨ・ラルゴはまさにそんな島。2週間ほどまえにハリケーンがここを直撃、その被害がまだところどころに残ってはいたけれど(ヤシの木が倒れていたり…)、すーっと気が遠くなような美しさだった。

砂浜はキメが細かく、純白。海は遠くのほうが深い青、砂浜に向かってだんだんグラデーションしていき、深い緑になり、波打ち際はターコイズ・ブルー、エメラルド・グリーンときて、最後に透き通った水がまっしろな砂を撫でる。

こんなに美しいリゾートとハバナ旧市街のカオスが同居しているこの国は、景色が美しければ美しいほど、ガイドのベアトリスの懐が深ければ深いほど、ハートブレイク・ワンダーランドに思えてしまうのだ。

『キューバの旅を終えて』

キューバの写真 

旅行した時期は1996年10月〜11月です。

 



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