ホーム> 60日間のラテンな旅行体験記
インデックス>ドミニカ共和国 |
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ビバ!メレンゲ |
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「これを見せれば食事も飲み物もみんなタダだよ」 フロントのおにいさんが言う。 このホテルを予約したとき、旅行代理店の担当者は、「何もかもみーんな含まれてるよ」と強調していたが、リゾートの大規模なホテル慣れしていない、ちょっと謙虚なわたしは、TAXと3回の食事が含まれているだけだと思った。それでも4つ星のホテルのシングル・ユースが1泊US56ドルなら充分にお安い。 しかし実際はTAXと3食のみならず、アルコールを含むドリンクもいつでも飲み放題、本当に「何もかもみーんな含まれて」いた(あとで友人に聞いたら、これは「オール・インクルーシブ」というけっこうポピュラーなシステムだそうだ)。もちろんビーチベッドもタダ。 ここはドミニカ共和国の入口、ラス・アメリカス国際空港から東へ30キロほどのフアン・ドリオというリゾート地。ホテルの部屋は上品なインテリアで統一され、窓からはビーチが見渡せる。ケーブルテレビはもちろんあるし、しかも飲み放題、食べ放題…である。わたしはすっかり住みたくなった。 バーに行き、カウンターにひじをつき、おにいさんに目配せする。手首には例の黄色いビニールのブレスレット…。これでビールでもラムでも何でも飲める。 食事もレストランの入口で、ちょっと腕を上げて手首の黄色いビニールを見せれば、すべてOK、あとは食べるだけである。 ブッフェ形式のレストランでは、まずほんの少しづつお皿に取りながら、メニュー全体をチェックし、特においしそうなもの、食べてみておいしかったものは、2巡目にたくさん食べる、という方法をとることにしている。 今日の最高の品はマヒマヒ(白身のお魚)と見た。ゴハンもある。リゾートでマヒマヒをおかずに白いゴハン…、もうすぐ来るすばらしい瞬間を思い描きながら、流れ落ちそうなヨダレをこらえてマヒマヒに手を伸ばしたとき、話しかけられた。 「日本人の方ですか?」 流暢とまではいかないが、日本語である。振り向くとラテンバンドでコンガを叩いていそうなドミニカ人のおにいさんが立っていた。 「日本語ができるの?」 と尋ねたら、明治神宮前のレストランで3年間ほど働いていたという。「原宿」と言わずに、「明治神宮前」という駅名で答えるあたり、几帳面な性格かもしれない。 「このホテルはドイツ人が多いみたいだけど、日本人も来るのかしら?」 「日本人は、1、2、3…4人くらい来る」 彼はひとりひとりの顔を思い出すように数えながら答えた。なるほど、妙に説得力がある。しばし彼と日本語の会話を楽しみ、マヒマヒを味わった。おいしかった! いかりや長介が楕円形の白い帽子をかぶり、カウンター越しの厨房でラーメンをゆでている。醤油ラーメンを食べ終わり、いかりや長介に「いくらですか?」と尋ねると、彼はこう答えたのだ。 「ああ、それは料金に含まれてるから。黄色いビニールしてるでしょ?」 夢はここで終わった。 「夢占い」というのがあるが、わたしの夢はどんな未来を暗示しているのだろうか? あるいは夢で性格判断するとしたら? 食に重きを置く、影響を受けやすい、けっこうシンプルな性格。ドメスティックで、幼児期に影響を受けたのはドリフターズの『8時だヨ、全員集合!』…といったところか。 ちょっとヘンな目覚めだったが、またブッフェで朝食を食べ、さっそくビーチへ。ビーチベッドに横になる、ビールを飲む、ビーチベッドに…の繰り返し。隣りにはドイツ人らしき家族連れ(!)のレズビアン・カップル、トップレスの女性も多いし、物売りのおにいさんたちは続々やって来るし、飽きることなし。 物売りはみんな気のいいCHICOS(男のコたち)。近づいてきてわたしのカラダをなめるようにじっと眺めて、好きなことを言う。「BONITA(美しい)」と賛美してくれるコが多いけど、「FUERTE(力強い)」、「GORDA(肉付きがいい)」、「KARATE(空手)」なんて言うヤツもいる。ここまで来てもやはり筋力系から脱せないわたし…。 「ボクたちは物を売ることが仕事だけど、こうやってお喋りしてコミュニケーションするって、すばらしいことだよね」 「去年、日本人の女のコをいろんなところに連れてってあげたんだ。そしたらすごく喜んで、今度は家族全員で来るっていうんだ。すごいだろう」 「今夜、踊りに行こうよ。隣り町にいいディスコがあるんだ。メレンゲ好きだよね?」 みんないろんなことを言っては去っていく。 それにしてもドミニカ人の男のコって、みんなとっても色気がある。ちょっとまえに大旋風を巻き起こした広島東洋カープの投手、チェコみたいなスタイルがよくて、セクシーな男のコがとっても多い。魅力のひみつは…? 船に乗り込むと男のコがやってきて、鮮やかな黄色の毛糸を左手首に結んでくれた。カタリナ島でも、このかわいい毛糸のブレスレットを見せるだけで、飲み食いはみんなタダ。なんか飽食状態にあるんじゃないかと思う、今日このごろ…。 島では同じツアーのイギリス人のグループと、ひとりで来ていたフランス人といっしょに過ごした。イギリスVSフランス…、バトルはあるだろうかと密かに期待したが、みんな温厚だったからそんなことはなかった。でもイギリス人がちょっとおもしろいことを言う。 「フランス人はボクたちの料理に文句をつけるけど、フィッシュ&チップスはおいしいんだよ。まだ気がついていないかもしれないけど…」 フランス人は、「そんな文句なんて…」という表情だが、あえて否定はしない。フィッシュ&チップスがおいしいと言われても、肯定はしない。 イギリス人はたたみかけるように言う。 「この島はフィッシュ&チップスのようにすばらしい!」 ユーモアとサービス精神に溢れた彼、日本についても何かコメントしなくちゃ、と気を使ってくれた。 「ランカスターにはゲイシャ・バーがあるんだよ」 「ホント? カラオケ・バーじゃないの?」 彼は「カッ、カッ、カッ」と笑い、「そうだったかもしれない」と言った。 カラオケとゲイシャはどちらも日本の代名詞だということはわかっていたが、このふたつの言葉、外国人のアタマのなかでは並列状態にあるのだ。明るく間違えられて、ちょっと複雑な気持ち…。 メレンゲは必ずペアで踊る。あの「ランバダ」に似ている(というとドミニカ人は「全然違う」と否定するが、男女がカラダを押しつけあい、見つめあう動きは、やっぱり似てると思う)。 ダンサーのひとりの男のコが、とっかえひっかえ女のコをつかまえては踊っている。男のコは全力で踊る。女のコはちょっと醒めたように、それでもセクシーに踊る。 メレンゲはとても官能的だ。男性はプリミティブな性的欲望を隠すことなく、腰を突き動かす。女性はそんな男性を焦らしながら受け止め、いっしょに官能の淵へ落ちたかと思わせておいて、凛としたり、ときどき快楽の表情に浮かべたり…。その間、男性はひたすら腰を突き動かす。 それにしても、その男のコの腰の動きはセクシーを超えて、アグレッシブでさえあった。いっしょに踊っていた女のコたちは、「もうアンタには付きあいきれない」と言って踊るのをやめてしまった。 「じゃあ、ボクはいったい誰と踊ればいいんだ?」 「観光客と踊ったら? たとえば…」 とダンサーの女のコがあたりを見回したとき、なぜか彼女とビッと音をたてて目があった。 「彼女なんかどう? 中国人よ」 ラテンアメリカでは黄色人種の代名詞は「中国人(チーナ)」である。 「どうだい、チーナ、踊ろうよ」 と彼が誘ってきた。 最初はふざけあっていたのだが、そのうち彼はわたしをヒョイと抱き上げ、腰を少し落とした姿勢で、わたしを自分の太ももに乗せた。水の中なのでそんなに重くはないだろうが、わたしの太股は全開状態である。 彼はわたしを抱き寄せる。抱き寄せられたわたしは彼の太ももの上をジリジリと上がっていく。行き着くところにあるのは彼のイチモツ…。 身につけているのは水着一枚なので、感触はとてもリアルだし、わたしたちのカラダは水に包まれている。胎内の羊水感覚が蘇ったような、本能が目覚めてしまったような不思議な快感を味わいながら、見つめあい、踊り続ける。Hだけど、原始に戻ってしまったような気持ちよさ…。 彼と同じくらいの褐色に焼けたわたしの二の腕に力を入れると、筋肉が震えた。肌についた水滴を、熱帯の太陽がまた焦がす。 メレンゲは本能を直接刺激するのだ…。 あとにもさきにもたった1回の水中メレンゲ。 でも今回はひとり旅、アブナイことが起きないよう、今日までメレンゲは自主規制していた。が、わたしは反射的に差し出された手を取ってしまったのだ。 見ていた以上に彼の動きはスゴかった。股間に男のイチモツをグイグイ押しつけてくる。曲に合わせて「ハッ!」とも「ホッ!」とも「ウッ!」ともつかない声を上げながら…。 相手が東洋人になってさらに燃え上がったのか、彼の腰の動きは激しさを増したようだ。わたしはそんな彼をうまくあしらいながら、大きく腰を動かす。 観光客から大きな拍手が沸いた。 ラテンの国の船の上で、太陽を浴びて明るく踊るメレンゲ。でも腰の動きだけを見ればHしてるときと同じようなもの。でもアダルト・ビデオにならないのは、ラテン系の人々の生来の明るさ、率直な欲望を自然に表現しているから、生命力の強さによるところではないかと思う。 まだ踊っていたかったが、船は港に着いた。 その晩、また夢を見た。今度は東京を外国人に案内してもらっている(案内しているのではなく)夢だった。 そして「オール・インクルーシブ」のシステムを楽しみすぎたのか、出発の日、派手におなかを壊した。 旅行した時期は1996年10月〜11月です。 |
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