ホーム音楽・映画系 ラテンもの インデックス ビバ!アルモドバルハイヒール
5/1/2000
ハイヒール
1991年 スペイン映画(原題 TACONES LEJANOS)

彼の映画で一番好きなのが、これ! 母と娘の心の葛藤を軸に展開するメロドラマな筋書きに絡む毒と色、スリリングなストーリー展開、サイケでビビッドな色彩感覚、そしてメロメロのラテン音楽・・・。この映画を見ずして、アルモドバルは語れない?! 

<物語の始まり>
流行歌歌手ベッキーは、恋多き女。結婚は2回、愛人もたくさんいる。娘レベーカは、継父との折り合いが悪く、母の愛を独占しようとして、継父を死に至らしめてしまう。悲しみに暮れたベッキーは、レベーカを置いて、メキシコへと旅立った。
15年後。大きな成功を収めたベッキーは、スペインに凱旋帰国、娘レベーカと再会する。レベーカは、テレビのニュース・キャスターとして活躍するいっぽう、なんと!母の昔の恋人マヌエルと、結婚していたのだ! しかしこの結婚は、破綻状態にあった・・・。
ある日、マヌエルは殺される。容疑者として挙がったのは、ベッキー、レベーカ、そしてマヌエルの愛人イサベル・・・。彼を殺したのは、だれ? 生番組で、マヌエルの死を報じるニュースを伝えるレベーカは、原稿を読んでいくうちに、感情を抑えながらもしだいに興奮し、震えながら告白する。「わたしが殺しました」。

<女たち>
独占欲、母に対する愛、その愛が満たされないことによる憎しみ、愛憎が渦を巻き、母を超えたいと願うレベーカ。テレビの人気キャスターとしてキャリアを積んだ彼女は、母が得られなかった「愛」を自分のものとするため、母のかつての恋人と結婚する。いっぽうベッキーは、母であることよりも、女であることを選び、いったんは娘を捨てる。愛がすれ違うふたりの心の葛藤を際立たせ、対比させるのは、華やかな衣装と鮮やかな色の洪水。娘はシャネルに身をつつみながらも、どこか危なげで、ナーバス。いっぽう母は、アルマーニも恐れ入るような存在感で、威風堂々と着こなす。
娘が殺人罪で逮捕されてもステージに立つ母が歌うのは、"PIENSA EN MI"(わたしを思って)。「落ち込んだときには、わたしを思って。泣きたいときも、そう、わたしを思って・・・」。レベーカは、拘置場に持ち込んだラジオで、母のライブを聞き、涙にくれる。さて、この愛憎の果ての結末はいかに???

<そして・・・>
原題の"TACONES LEJANOS"は、直訳すると『遠い踵』。スペインで『遠い太鼓』というタイトルで封切られた西部劇に由来しているらしい。

劇中、まだ子供だったレベーカが寝ていると、ハイヒールの踵の音とともに、母が帰ってくるシーンがある。遠くから聞こえてくる踵の音に喜びながらも、またすぐに遠ざかってしまうのではないか、彼女はいつも、不安から開放されない。ハイヒールの踵の音は、彼女にとって、母という存在そのものだったのだろう。

それにしても、母ベッキー役のマリサ・パレデスの存在感は圧巻! 背中が大きく開いたドレスを着て、ステージでひれ伏すシーンがあるんだけど、その背中に刻まれた無数のシミ・・・。男の顔は履歴書っていうけど、女の背中は歴史を物語るんだわ。圧倒。
レベーカ役のヴィクトリア・アブリルは、国際的にも活躍するスペインの大女優。母の愛に飢え、複雑な葛藤を内包する、エキセントリックな娘を見事に演じてます。特に、ニュースを読むときの地を這うように低い彼女の声が忘れられない。





主演女優ふたりの写真
右 母ベッキー役 マリサ・パレデス
左 娘レベーカ役 ビクトリア・アブリル




マリサ・パレデス写真
ステージで歌うシーン マリサ・パレデス





ビクトリア・アブリル写真
生番組で自らが犯した罪を告白するシーン ビクトリア・アブリル
<挿入歌は・・・> 
もうメロメロなラテン・バラード。劇中では、母ベッキー役のマリサ・パレデスが歌ってることになってるけど、実際に歌ってるのは、スペインのロック系女性歌手LUZ(ルス)。『コモエスタ赤阪』みたいな、古典的ラテン歌謡で、これがたまらなくいい! ちなみにこの2曲以外のほとんどの曲は、坂本龍一がてがけてます。

メロメロなバラードをリアルオーディオで試し聴き!
Piensa en mi Un ano de amor
Performed by LUZ

<出演者たち> マリサ・パレデス写真
母ベッキー役 マリサ・パレデス
スペインの大御所舞台女優。映画出演は少ないが、アルモドバル映画では常連。『バチ当たり修道院の最期』(1983)、『私の秘密の花』(1995)、最新作、『オール・アバウト・マイ・マザー』にも出演している。


ビクトリア・アブリル写真娘レベーカ役 ビクトリア・アブリル
1959年7月4日、マドリード生まれ。『ロビンとマリアン』(1976)、『わが父パドレ・ヌエストロ』(1985)、大島渚監督の『マックス・モン・アムール』(1985)など、出演作多数。フランス映画界にも進出し、国際的に活躍している。アルモドバル映画では、『アタメ』(1990)で、主演を演じている。
余談だけど、フランス語も堪能な彼女は、セビリヤ万博で、フランスのTV局のレポーターを務めた。あれも、これも説明したい。でもスペイン語ほど、怒濤の早口では喋れない・・・。頭と口が一致しなくて、ウニウニ状態になった彼女に、コンビを組んだフランス人男性レポーターが、優しく語りかけた。「ビクトリア、焦らなくっていいんだよ。ボクたちには、時間は十分にあるんだから」。妙にホッとした表情を見せる彼女。天下の大女優なんだけど、こういうところ、いかにもスペイン人ぽくて、かわいい。


ミゲル・ボセ写真レタル/ドミンゲス判事 一人二役 ミゲル・ボセ
今でこそ性格派俳優、大人の歌手として活躍する彼だけど、1980年代前半ごろは、西城秀樹みたいなことやってた、スペインの元祖アイドル。世代はひとまわり上だけど、スペインのルイス・ミゲル的イメージね。
この映画では、昼は判事、夜は女装してクラブでパフォーマンス、マザコンで、ちょっとヘンタイ入ったきわどい役柄を好演! 現在、彼は、TVEでバラエティの司会をやってます。

ミリアム・ディアス・アロカ写真マヌエルの愛人イサベル役 ミリアム・ディアス・アロカ
彼女って、たぶん、昔スペインでやってた古典的体当たり系クイズ番組"UN DOS TRES"(1、2、3)の司会の女のコだと思う。この映画では、シビラの服着て、野望に燃える手話キャスターを演じてます。




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