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11/06/2000

アモーレス・ペロス
心臓をわし掴み! 心の奥底をえぐりだすメキシコ版ストリートムービー
濃い、重い、長くて、苦しい映画。でも、ぜったい見る価値がある!

監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イナリトゥ
出演:エミリオ・エチェバリア、ホルヘ・サリナス他
メキシコ映画 1999年 153分




元ゲリラの殺し屋役 エミリオ・エチェバリア「男」オクタビオ役 ガエル・ガルシア・ベルナル テレノベラでも大活躍!ホルヘ・サリナス オクタビオを追い詰めるのは彼

オクタビオの兄貴の嫁さん役 バネッサ・バウチェ オクタビオの兄貴 オクタビオ2 闘犬の元締め

<ストーリー>
追われている。派手なカーチェイスを繰り広げながら、「男」と仲間は逃げる。車の中で血を流している黒い物体は、どうやら犬らしい。しつこく追いかけてくる謎のクルマにあおられ、ついに・・・。
時は遡る。同居しているマッチョな兄貴の嫁さんに惚れてしまった「男」は、悶々とした日々を送っている。彼女に楽な暮らしをさせてあげたくて、ホントはいっしょに逃げたくて、飼犬を闘犬に仕立て上げ、「男」は成り上がる。しかし「男」の成功を妬む街のチンピラは、「男」の犬に銃を向け、そして・・・。
カーチェイスの果てのクラッシュに巻き込まれた人気モデルの女、現場から負傷した犬を連れ去る元ゲリラの殺し屋、実の兄弟の殺しを依頼するビジネスマン、不倫、虚飾、成功と喪失、寂寥・・・。それぞれの登場人物の過去、現在、しがらみ、空間を交錯させ、緻密なプロットで描く、メキシコ映画の大傑作!

<超リアリズム>
カメラは、手持ちを多用して街を駆けまわる。画面が揺れ、スクリーンからはみ出すほどの顔のアップが繰り返されるたびに、主人公たちが等身大で迫ってくる。2時間半を超えるこの映画は、終わりのない悪夢? 果てのない旅? 主人公たちといっしょに、出口のない迷路に迷いこんだような錯覚。山積みする問題の解決の糸口が見えない、重くて長い人生が、自分にのしかかってくるような感覚。見る者の心臓をわし掴みにする強大な力と、超リアリズムな圧倒的表現力に打ちのめされる!

<ティーチインで質問してみた!>
この映画を見たのは、2000年の東京国際映画祭です。上映後、来日した監督と俳優のティーチインが行われました。質問が集中したのは、登場人物たちが犯す罪深き行動と、キリスト教の原罪との関係。映画では、2組の兄弟が、女性や仕事をめぐって、争いを繰り広げました。彼らは、現代版「カインとアベル」の象徴ではないか、との質問の解答は・・・。

監督:「この映画を見た多くの人々から、宗教との関連性を指摘されることに、実は驚いている。そういった意図はまったくなかったんだ」。彼の説明に納得できなかった別の人が、同じことを重ねて尋ねたけれど、答えは変わらなかった。確かにこの映画には、「罪」が山積みになっている。特別な罪のように見えて、誰もが犯す罪の束・・・。

それにしても、ひとりの女をめぐる兄弟の争い、人は罪を背負って生まれてきたとする原罪・・・。これってテレノベラの世界じゃん。「テレノベラとこの映画の関連性」を聞いてみたい。でも気を悪くするかも。メキシコの芸術家や知識人たちは、テレノベラを「低俗なもの」だと切り捨てているからね。

次の質問は、メキシコにおけるメキシコ映画とハリウッド映画の現状・・・みたいな内容だったと思う。もう1つ質問する時間が残されているか気になって、ハラハラしてた。

監督:「この何年かの間に、メキシコで商業的な成功を収めたメキシコ映画は5本ほどあるけれど、そのうち4本はコメディだ。人々は楽しみを求めて、映画館に行く。当然なことかもしれないね」

じゃ〜ん、そのときは来た。「メキシコは世界的にテレノベラ王国として知られているけれど、この映画にテレノベラの影響はあるのでしょうか」。ついでだから、スペイン語で言ってみた。

監督:「メキシコという国から、テレノベラを連想されるのは、ちょっと恥ずかしかったりもする。もしこの映画に、テレノベラ的なものが感じられるとしたら、それはテレノベラの影響じゃなくて、ラテンアメリカのエッセンスなんだと思う。激しく口論し、泣き叫ぶ。日本人やイギリス人は、こういう激しい表現をあんまりしないけどね」

俳優(エミリオ):「テレノベラね・・・。(とちょっとムッとした様子)。まあ、ひとつ言えることは、いいものはいいし、よくないものは、よくないってことだ」

<その後、ロビーにて>
三船敏郎に似てる? エミリオ・エチェバリアティーチインが終わり、お手洗いに行って戻ってきたら、ロビーにエミリオがいた。エミリオ・エチェバリアは、元ゲリラの殺し屋を演じた渋〜い俳優さん。さっきの質問のフォローをしたくて、話し掛けてみた。
「つまり、テレノベラとこの映画が似てるってことじゃなくて、何か一致するものがあるように感じたっていうか・・・」
「たとえば?」
「愛、激情、積年の怨念、憎悪・・・」
「それなら、シェークスピアだってそうだ」
「なるほど」
(今にして思えば、「ガルシア=マルケスやフアン・ルルフォだって同じですよね」って言えばよかったと思う)
「きっとあなたが感じていることは、わたしがクロサワの映画を見て、日本人に対して抱く感情と似ているのかもしれない。ほ〜ら、わたしはミフネに似てはいないかい?」
言われてみれば、似てるかも・・・。

ところで、彼は日本がとっても気に入ったという。人も、食べ物も・・・。ここでやっと彼のガードが取れ、和やかな雰囲気になって、ほっと安心。エミリオって、毅然としてて、威厳もあって、それこそシェークスピアものとか演じたら、すごいことになるんじゃないかしら。お次のファンが待っていたので、そろそろ退散することにした。キスしてもらい、抱きしめられ、至福状態で去り、3歩歩いたところで、忘れ物をしたことに気がついて、戻って言った。「ブエナ・スエルテ(グッド・ラック)」。


*ティーチインでは、メモも録音もしなかったので、「だいたい」の感じです。そういえば、カメラも忘れた・・・。アモーレスは愛(複数)、ペロスは犬(複数)の意味ですが、ペロには、サイテーって意味もあります。この映画を見た方、メールで感想などぜひ教えてね!

追記:この映画は2000年のアカデミー賞、ゴールデングローブ賞の外国語映画賞にノミネートされました。

<リンク>
登場人物・ストーリー紹介、写真、掲示板、ビデオ、スクリーンセーバーから、出演者インタビューまで、AMORES PERRO尽くしのスーパーサイト(英語/スペイン語)
http://multimedia.elfoco.com/elfoco/amoresperros/

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