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1/16/2000
予告された殺人の記録
1987年 フランス=イタリア合作(原題 CRONICA DE UNA MUERTE ANUNCIADA)

<物語>
南米コロンビア。大河マグダレナ川の上流にある村の港に、初老の男性クリストが降り立った。数十年ぶりに故郷に戻った彼は、かつての親友サンティアゴが眠る墓地へと向かう。25年前、サンティアゴは、「ある容疑」をかけられ、復讐のために殺されたのだ。この殺人事件の全貌を明らかにするため、クリストは人々の記憶の断片を集めはじめる・・・。

あのころ、どこからともなく現れた謎の大金持ちのアメリカ人青年が、村で評判の美人を見初め、ふたりは結婚式を挙げた。しかし、初夜の晩、彼は娘を実家に返しに行く。彼女が処女ではなかったからだ。「相手は誰だ?」。問い詰める娘の双子の兄たち。追いつめられた彼女は、村一番の色男サンティアゴを名指ししてしまう。双子の兄たちは、復讐と名誉挽回のため、彼を殺すことを決心し、行動を起こすのだが・・・。

<不条理>
貞操を奪った犯人と名指しされ、双子の兄たちに狙われたサンティアゴは、不運な偶然が重なり、殺されてしまう。彼らは「あいつを殺す!」と宣言していたから、小さな村の人々は、みんな知っていたけれど、まさか本当に殺したりはしないだろう・・・と軽く考えていた。念のため、本人に「殺されちゃうよ!」と伝えようとするが、パズルみたいに絡まって、どうしても伝わらない。

双子の兄たちも、最初はそれほど本気じゃなかった。誰か止めてくれるだろうと思っていたが、結局、誰も止めてくれなくて、後に引けなくなる。息子を守ろうとした母さえも、最後には扉を閉ざす。そして彼は、公衆の面前で殺される。ギリシャ悲劇のような物語は、空気が重くのしかかる熱帯の湿地を舞台に繰り広げられる。

初夜に処女でなかったことが発覚し、実家に戻されてしまった娘は、その後も独身を通し、何十年もの間、夫になるはずだった「彼」へ宛てた手紙を書き続ける。そして長い年月が過ぎたある日、「彼」は戻ってくる。彼女が書いた何千通もの手紙を紙吹雪のように舞い散らせながら・・・。

果たして彼女の処女を奪ったのは、サンティアゴだったのか? 数十年に渡って「待たなければならなかった」のは、彼女に与えられた罰なのか?

勧善懲悪でわかりやすいアメリカ映画とは対極で、「殺されなくてもいいのに、なぜか殺されてしまう」までの過程を延々と追い、殺される原因になった娘の過去と現在を、時間枠を超えて絡ませる手法は緻密だけど、わかりにくい。でも映像が摩訶不思議な引力に支配されてるから、飽きさせない。

あるところにふわっと浮かんでいるような、こわいほど美しい村。鮮烈すぎる色彩と目を刺すほどにあざやかな白い世界は、この世のものではなく、冥土との接点を暗示しているのかもしれない。死んでいく者と生きる者、生き続ける者たちの苦悩、そして渾然一体となる過去と現在・・・。現実と幻想が交錯するなかで、酒場にたむろする男たちの汗が、妙に生々しく光る。「どこでもないどこか」で展開する「魔術的リアリズム」の世界は、一度知ったら蜜の味、抜け出せなくなるかも・・・。

<エトセトラ>
この映画は、コロンビアのカリブ海沿岸地域、マグダレナ川沿いの小さな町モンポスで主にロケを行い、カルタヘナでも撮影されたという。カルタヘナは、ガルシア=マルケスが世界一美しいと賞賛するカリブ海のリゾート地。かつて奴隷貿易の拠点となった港町で、開放的な土地柄を持つ。

カリブ海沿岸地域では、ヨーロッパとアフリカの文化、カリブ海の国際性、古来から土地土地に根付く神話、寓話などが混ざりあい、独特の文化をつくりだしている。その一方、保守的で閉鎖的な風土が生み出す閉塞感も存在しているんだけど、この映画は、実際にこの地域でロケを行い、風土が持つ「気」を捉えることに成功していると思う。

惜しかったのは、音楽。劇中ではキューバ系ラテンがかかるんだけど、このあたりにはクンビア、バジェナートなど、土地土地の音楽があるの。クンビアはサルサを緩くしたようなダンス系。バジェナートはアコースティックなバラード系、あとトロンボーンやトランペットなど管楽器を取り入れた、メキシコのファンダンゴに似たPORROなどの音楽もある。

この物語は、1951年、原作者ガルシア=マルケスが住んでいた小さな町(スクレ)で、実際に起こった事件が題材になっている。「理解できる」「理解できない」はともかく、一度見ておいて損はない映画です。

予告された殺人の記録
CRONICA DE UNA MUERTE ANUNCIADA

1987年 フランス=イタリア合作
原作 ガブリエル・ガルシア=マルケス
監督 フランチェスコ・ロージ
出演 ルパート・エヴェレット、オルネラ・ムーティ、アントニー・ドロン他


冒頭のシーン
物語はここから始まる

原作の英語版表紙
原作の英語版表紙

<出演者たち>
オルネラ・ムーティ
オルネラ・ムーティ
夜に処女でないことが発覚し、実家に戻される娘アンヘラ役。ローマ生まれのイタリア人女優。14歳でのデビュー作『シシリアの恋人』(1970)以降、現在も世界を舞台に活躍している。代表作は、『未来は女のものである』、『チェイサー』、『スワンの恋』など多数。緑の瞳がゾクゾクするほど神秘的。



アントニー・ドロンアンソニー・ドロン
処女を奪った犯人とされ、殺されてしまう色男!サンティアゴ役。もういかにも「お金持ちのボンボン」って感じで、エロティック、見るからに女に手が早そう。ピッタリのハマリ役だ・・・。アラン・ドロンの息子なんだけど、そういえば最近、彼の名前を耳にしない。地中海でヨット乗りまわしてたりして・・・。

ルパート・エヴェレットルパート・エヴェレット
娘を見初める謎の大金持ちアメリカ人役。80年代後半には、けっこう人気爆発してたイギリス人俳優。彼が出演してた『ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー』、暗くて、希望のない映画だったけど、好きだった。最近では、『ベスト・フレンズ・ウェディング』『理想の結婚』などに出演。上手にオヤジになっている。

関連リンク この映画の原作者 ガルシア=マルケスについて読む



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