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09/22/2003

ボサノヴァの神様
ジョアン・ジルベルトと同じ空気を吸った一夜




ジョアン・ジルベルト
photo: 2003年9月18日 朝日新聞より 撮影 P-2 VIBRATION

チケットにはちゃんと書いてあった。「※出演者の都合により開演が遅れる場合があります。ご了承ください。」って。彼にはいろんな逸話があるそうだ。気に入らないと、30分でライブをやめてしまう。かと思うと、アンコールが止まらなくなって10曲も演奏した。エトセトラ、エトセトラ。だから、覚悟はできていた。ま、開演は1時間は遅れるでしょう。でも、「開場」が1時間近く遅れたのは、予想外。ぶ厚いドアの前で、丸の内の夜景を見ながら、待った。

暑かったのは、エアコンが止まっていたからだと気がついたのは、アナウンスが流れてから。扉が開くとほどなく、「出演者の意向により、本日の公演では、エアコンを停止いたします」。澄ました声が言ったときは、笑っちゃって、力が抜けた。でも、それは、極上なひとときへの入口でした。

すべてが始まるとき、彼は「コンバンワ」と挨拶した。それ以外、一言も喋らず、約2時間、ひたすらボサノヴァを奏でた。名盤 "GETZ/GILBERTO"を初めて聞いたのは、もう遠い遠いむかし。さすがにリアルタイムでは知らないけれど、このアルバムを聞くと、必ず蘇るのは、小学校の近くにあったテニスコートあたりの風景。理由はわからないし、理由なんてないのかもしれない。

ライブの間、目を閉じると、今はもうないテニスコートとイパネマの海岸、そしてこのアルバムが録音された1963年のニューヨークが、蜘蛛の糸のような細い、でも柔軟な線で結ばれて、あっちこっちにトリップする。イパネマは今だに行ったことがないけど、そのぶん、イマジネーションが拡がる。曇りのほうがいいし、海岸よりは、ちょっと横道に入った、派手じゃないけど、抑えたようなスタイリッシュなバーのほうがいい。

72歳のジョアン・ジルベルトは、40年前と同じ声で、淡々と、ギターを弾いて、囁くように歌う。ステージには、彼ひとり。もう、他に何もいらない。

トリップしながら、まどろんだ。神様の生演奏を聴きながらの、極上のうたた寝。こんなにきもちよくて、しあわせな時間は、めったにない。っていうか、「時間」っていう枠を、超越してた。エアコンもなくて、どこかから柔らかいそよ風が、ゆったりと吹き抜けていくような・・・。

J-WAVEの『サウジ・サウダージ』、9/14と9/21の放送で、ジョアンの詳細なライブ・レポートを特集していました。それによると、全4回の公演のうち、日によって、曲目は全然違うし、曲数もまちまち。世界で初めて!?スタンダード・ジャズの名曲、『オール・オブ・ミー』を演奏した日あり、アンコールを12曲!演奏した日あり、はたまた、ステージ上で20分間の静止があった日あり・・・と波乱万丈?だったようです。

わたしが行ったのは、初日の9月11日だったんだけど、この日は、『イパネマの娘』を演ってくれませんでした。でも、だからどうした!って感じ。あの晩、ジョアンと同じ場所にいることができて、同じ空気を吸って、極上のひとときを過ごした。それだけで、もう、何もいらないもんね。

*J-WAVEのウェブサイト www.j-wave.co.jp から、日曜日放送のSAUDE! SAUDADE に入ると、ジョアン・ジルベルトの来日公演曲目表があり、ライブの詳細も読めます。


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