ホーム 60日間のラテンな旅行体験記 インデックスヨーロッパ/アメリカ

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第三日目

リサは6時に起きて仕事に行った。今日はヨークシャーでクルマの展示会のコンパニオンの仕事が待っている。

リサのお母様とわたしが起きたのは10時ごろ。例のディベート番組を見ながら朝食。ディベート番組の今日のテーマは「ミスコン」だった。

お母様はテレビが好き。「いっしょにどう? 1日じゅうのんびりとテレビを見るのも楽しいわよ」と誘惑された。そういえば、旅行を始めて以来この2か月近く「1日じゅう家にいた」ことがない。「のんびりとテレビ」は大きな誘惑だったが、旅行もあと数日でおしまい。東京に戻れば、いくらでものんびりできるので、お母様の誘惑を振り切ってチェスターの大聖堂を見に行くことにする。「じゃあ、行ってきます! 6時半ごろに帰るからね」なんて言ってお出かけするのは、まるで「家」にいるみたい。

シュルーズベリーの町をゆっくりお散歩してから、列車で1時間ほどのチェスターへ。「みなさん、次の駅はXXXです」という車内アナウンスを聞くと、日本みたいで妙に落ち着く(南ヨーロッパの国鉄では、車内アナウンスはほとんど耳にしない)。「LADIES AND GENTLEMEN」と呼びかけるあたり、さすが紳士淑女の国である。「足元にお気をつけください」なんてことまでアナウンスするが、さすがに「出口は左側」とまでは言わなかった。

イギリスは「外国」という感じがあまりしない。クルマは左側通行、ポストは赤い、人々は大きな声で話さないし、ゴミもあんまり落ちてない。同じ島国で国民性が似ていることもあるだろうが、日本のさまざまなシステムはイギリスの制度をお手本に作られたことを実感。でもリングピアスがすごく似合う国鉄の若い車掌さんがいた。このあたりはさすが!パンク発祥の地???

チェスター駅のインフォメーションには、とても親切でオーガナイズされている。有料だがわかりやすい地図も売っているし…。しかも国鉄の切符を見せれば、駅から町の中心に行くバスはタダ! ささやかだが、大きな喜びである。

ロンドンバスの2階の正面に座り「おのぼりさん」してたら、見慣れたファースト・フードの看板などが見えてきた。このあたりが町の中心だろう。バタバタと階段を駆け下りる。とっても空腹なのはなぜだろう? カフェオレ+オレンジジュース+トースト+ジャムの朝食が軽すぎたからか? こんなときはピザ屋のブッフェだ。

すっかり満足したら、もう3時。北ヨーロッパの冬は日暮れが早い。大聖堂はご挨拶程度にしておこうと思っていたが、長居してしまう。予備知識を持たずに来てしまったが、このチェスター大聖堂は1092年に建てられた由緒ある教会(いまもその一部が残っている)。日本語のパンフレットも置いてあり、現在の建物は1250年から250年もかけて建てられたと書いてあった。シュルーズベリーの教会と同じようにレンガが使われているので、(レンガの色が濃いせいか?)いっそう重厚な雰囲気をかもしだしている。ステンドグラスも印象的。なんて美しいんだろう…。

昨日、訪れた「シェークスピアの生家」にしても、このチェスター大聖堂にしても、イギリスの文化遺産は保存状態が非常によく、加えて付属の説明も充実している。これも几帳面な国民性の表れか? ギフトショップでおみやげのワインを購入。

教会を出るともう半分夕暮れ。白壁と黒い梁を持つ家々が並ぶ通りを歩いていくと、川(ディー川)にでた。古い石造りの橋(オールド・ディー・ブリッジ)、城壁、秋色に染まった草が揺れる川原などを見ながら、しばしたそがれる。ゆっくりと暗闇が訪れる初冬のヨーロッパは、かなりロマンチックでもある。

城壁に沿って川辺を歩いていくと、大きな通りに出た。通りの向こう側には、緑の芝生が広がる大きな競馬場。芝生の緑に淡く白い霧がかかり、一面に広がった薄緑が時間がたつにつれてゆっくりと闇に溶けていく。幻想的。

メインストリートに戻り、再びバスに乗って駅へ。ドライバーは明るくノリがよい。乗客に何か質問すると(アクセントが超イギリスでまったくわからなかった)、おばあさんたちが一斉に「オー・イエース!」などと応えている。そんなやりとりを見て、若いコたちは笑っていたけど…。彼はバスを降りるとき、「すばらしいクリスマスを!」「すばらしい旅行を!」とみんなに声をかけてくれた。ハートウォーミングなひととき。

シュルーズベリーのリサの家に戻り、お母様とリサ、彼女のお友達とみんなでスパゲティ・ボロネーズの夕食。イギリスは2回目だが、今回はホントにすべての食べ物がおいしく感じられる。なぜ? きっと前よりイギリスが好きになったからじゃないだろうか? その国を好きになれば、なんでも好きになる。逆のことも起こりうるけど、やっぱり「好きになる」ことからすべては始まるのだ。チェスター大聖堂で買ったおみやげの赤ワインは辛口でイケた。大聖堂の近くで買った「ハミルトン」のチョコレートも生タイプでおいしかった。

「こんなにいろいろ買ってきちゃったんだから、必ずもう一度、来年にでもこの家に戻ってこなければいけない」とリサはまじめな顔をして言った。

「あなたがこの家にいた時間は、たった3秒だったみたい」とお母様。

そう、明日の朝早く、わたしは旅立つのだ。ありがとう、きっと戻ってくるからね!

夕食後はテレビ・タイム。サッカー場の事故で100人近い若者が亡くなったという実話を基にした2時間ドラマを見る。特にリサは「彼らはもうすぐ離婚する」「ほら、こんなことになった」などとブツブツ言いながら、熱中して見ていた。

最終日

朝6時半に起きて、以前わたしたちが働いていた東京のモデル事務所に電話をすることになった。久しぶりの再会の「締め」は、やっぱりこれでしょう。

「わたし、リサよ。久しぶり! みなさん、お元気? ええ、ちょっとどうしてるかなあと思って…。ええ、イギリスからかけているのよ」とリサが話し始めた。「ねえ、今ここにともだちがいるの。あなたも知ってる人よ。きっと驚くと思うわ」と言って、リサが受話器をくれた。

電話の相手は社長だった。わたしが名乗ると、彼女(社長)は驚きのあまり2秒間ほど言葉を失った。物事に動じないタイプなだけにとてもおかしい。笑いをかみ殺すのは大変だったけど、まあ、驚くのも当然か。わたしたちがいっしょに働いていたのは、もう10年も前。長い年月が過ぎて、突然、イギリスからモデルと元マネージャーが仲良く電話して来たんだから。もしかして、前代未聞、業界初のできごとかもね。

リサのクルマでシュルーズベリー駅へ。まだ暗い町がどんどん遠ざかっていく。「すばらしい旅行を!」とリサ。「またね! もう一度、寝直してね!」とわたし。早朝の、まだ暗い寒い駅のプラットフォームは、むかしよく聞いた「WAH」というバンドの『STORY OF THE BLUES』みたいなイメージ。

乗換駅で、予定よりも早く出発する列車があったので乗りこんだら、車掌さんに「この列車はその切符では乗れない。追加料金30ポンド(約5700円)が必要だ」と言われた。「そんなこと知らなかったし、イギリスのお金は20ポンドしか持っていない」と抵抗したら、「クレジットカードがあるだろう」。不本意ながらクレジットカードを差し出したが、車掌さんの機械が壊れている。何度もやり直したがダメ。「じゃあ、この紙に名前を書いて。列車がロンドンに着いたら、一番前の車両に来るように」と苦りきった顔で彼は言い、わたしの名前を書いた紙を持って立ち去った。

ロンドンに到着し、一番前の車両に行くと、彼は笑顔で言った。「もういいよ、払わなくて。イギリスのバケーションを楽しんでね」。ますますイギリスが好きになるの巻。

ユーストン駅からヒースロー空港までは地下鉄。ロンドンの若いコたちって、独特なセンスのよさがある。物静かで「静」のイメージなんだけど、過激さが潜伏している感じ。やっぱりパンク発祥の地だからかなあ…。それとも思い込み?

ヒースロー空港のチェック・インはとてもキビシイ。荷物チェックは二重、三重。「イギリスではどこに泊まっていたのか?」「その友達はイギリス人か?」「彼女とはどこで知り合ったのか?」。そこまで聞くので、ちゃんと順を追って説明して差し上げた。「じゃあ、あなたもモデルなのか?」「いや、わたしはただのマネージャー」「あなたならモデルになれるよ」「ありがとう」。厳しいチェックも最後は笑顔とお世辞でキメてくれた。

リサに電話。「お昼は何を食べたの?」「バーガーキングでウォッパー」「ダメよ、フィッシュ+チップスじゃなきゃ」。リサはとっても残念そうに言う。そうだね、今度来たとき「名物フィッシュ+チップス」をきっと食べるからね。

ふとドミニカ共和国で出会ったイギリス人のおじさんを思い出した。現地調達のツアーのバスの隣りに座っていた彼は55歳くらい、温厚な印象、じっくりと話を聞き、ゆっくりとわかりやすく話す。

「みんながもっとコミュニケーションをとっていけば、いま世界に存在する問題はずっと少なくなっていくだろう」。

「いろんな国を旅して、いろんな人々と会った若い人々が、これからの世界をつくっていく」。

ちょっとキザに聞こえるそんな言葉も、人柄だろうか、彼が言うと不思議な説得力を持ったのだ。

できるかどうかは別として、わたしはこの旅行で「コミュニケーションを持つこと」「好きになること」の大切さを学んでいるのかもしれない。

旅行した時期は1996年10月〜11月です。



旅行して、どんな人たちと会った? どんな体験をした? 何を感じた?
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