ホーム世紀末な???中南米旅行インデックス メキシコ

6/28/1999

奇跡…そして神秘のマント


中南米旅行に教会と遺跡はつきもの。どちらにも造詣は深くないが、せっかく来たんだから(もったいない)…と、一通りは見学することにしている。現地ツアーに参加すると、いろーんな人たちとお喋りする機会も増えるしね。今日のガイドはアルフォンソくん。5か国語を話す、スーパー若者である。日本語もちょっと喋れて、「こんにちは!」なんて挨拶したりする。アタマがいいだけじゃなくて、愛想もよく、笑顔までかわいい。うふふ…。

メキシコは10日後にローマ法王の訪問を控え、想像を絶するくらい盛り上がっていた。「まだ10日もある」のに、連日連日、トップニュースはいつもローマ法王。「宗教」といえば、「新宗教」の話題ばかりな日本では、ちょっと考えられない大騒動になっている。ちなみにローマ法王は、メキシコでは、親しみをこめて「パパ」と呼ばれている。

「メキシコは99%がカトリックで、ホントにとっても信心深い。グアダルーペ寺院では、16世紀に<奇跡>が起ったと言われているんだけど、長いことローマ法王(バチカン)は、その<奇跡>を認めず、メキシコを訪れることもなかった。信心深いメキシコ人にとって、これは非常に不本意なことだったんだ。でも今はバチカンとの関係もすっかり修復され、ローマ法王がメキシコを訪れるのは、これで4回目なんだよ」

「<奇跡>が起ったのは、1531年12月。現在、グアダルーペ寺院が立っている丘を歩いていた先住民の男性の前に、褐色の肌をした聖母が現われ、『この地にわたしの教会を建てるように』とメッセージを伝えたんだ。彼はそのことを司祭に話したんだけど、信じてもらえなかった。で、彼が再び丘を歩いていると、またまた聖母が現われ、彼にバラの花束を渡した。この季節にバラは咲かないからね、<奇跡>の証明になるんだ」

「司祭の目の前で、バラを包んだマントを広げると、あら不思議。金色の光とともに、マントに褐色の肌の聖母の絵が浮かび上がったんだよ。で、もっと不思議なことに、この絵に使われている塗料は、地球上には存在しない物質なんだ。しかも!その布はいまだに光沢を失わず、保存されている。このあたりの布は、100年もたてば、ボロボロになってしまうはずなのに…」

ガイドのアルフォンソくんが、詳しく説明してくれた。これから<奇跡>が起きた場所に行くなんて、ドキドキ…。ローマ法王も、ここを訪れる予定になっている。

「ほら、彼らを見てごらん。500メートルを膝立ちで歩くんだ」

グアダルーペ寺院に着くと、アルフォンソくんが教えてくれる。たくさんの人々で賑わうなか、膝を立てた状態でゆっくりと進んでいくグループがいた。

「ジーパンの膝が破ける。破けるだけじゃなくて、血も出るんじゃない?」

「そうだよ。修行なんだ」

奇跡のマントは壁にかけられているが、立ち止まらないように、動く歩道に乗りながら見る。「あああ…」と言ってる間に通り過ぎてしまったが、マントを見つめる人々の顔は真剣だ。

「ああいう家に住んでる人々は、『パラシューター』って呼ばれてるんだ」

グアダルーペ寺院を後にし、高速道路を走っていると、山の斜面に即席で建てられたようなたくさんの家が見えた。その家を指差しながら、ガイドのアルフォンソくんが説明を続ける。

「地方から仕事を求めて、たくさんの人々がメキシコシティにやってくる。でもいい仕事はそんなにない。だから彼らは、とりあえず空いてる場所に住み着いて家を建てちゃう。特に郊外の山の斜面に多いんだ。不法占領なんだけど、後から後からやってきて、取り締まりきれない。空から降ってくるように、突然現われて土地を占拠しちゃうもんだから、『パラシューター』って呼ぶのさ」

「ただし『パラシューター』でも、その場所に住んで5年たつと、所有権が発生し、税金を払わなくちゃいけなくなる。で、彼らは考えた。ほら、家をよく見てごらん。鉄の棒が剥き出しになってるだろう? あの棒が見えてる家は、まだ完成していないとみなされる。家にかかる税金は、地代と建物代があって、地代はとても安いんだけど、建物代は高い。だから実際には住んでいても、鉄の棒を出したままにしておいて、税金逃れをしてるんだ。そんなわけで、税金はさっぱり集まらない」

「棒が出てるか、出てないか」で税金の対象を決める…なんてどんぶりだ〜。と思いつつも、メキシコの人口首都集中問題を目の前につきつけられたように感じた。メキシコシティの人口は2200万人、郊外に300〜400万人、毎年100万人づつ増えているそうだけど、実際に何人住んでいるのか、誰にもわからないのかもしれない。地方には仕事がない、都会に出る、それでも仕事がない…。

メキシコ滞在中、彼らの信心深さはどこから来るのだろう…とずーっと考えていた。「受け継がれてきた伝統さ」と言う人もいたけど、がんばっても、どうにもならない現実が横たわっているからじゃないか…と思ってしまうのだ。

ローマ法王が訪れる直前、わたしはメキシコを後にし、パナマへ向かった。空港へ向かうタクシーのドライバーは、料金先決め制なのに、わざわざ遠回りして、ローマ法王がパレードする道を案内してくれた。「ほら、この道を、こっちからあっちへパレードするんだ」。説明する彼のまなざしも真剣だ。「それにしても、あと少しでローマ法王がやってくるっていうのに、どうしてメキシコを離れるんだい?」。

 

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