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MARCH 1998+4/1/2000
スペイン映画祭

1998年3月21〜27日、東京・六本木シネ・ヴィヴァンで行われた「スペイン映画祭」。お蔵入りになった作品も含めて紹介しています。

エストレーリャ〜星のまわりで ライブ・フレッシュ パハリーコ〜小鳥  おわりに

 

エストレーリャ〜星のまわりで LA BUENA ESTRELLA

ダニエルとマリーナ
原題は「幸運の星」という意味だけど、タイトルとは裏腹、人によっては「暗い!」で終わっちゃう映画かも・・・。でも今回スペイン映画祭で見た4本のなかで、いちばん印象に残った映画が、これ!

<あらすじ>
温厚な肉屋の店主(ラファエル)は、ある日、肉の仕入れから帰る途中、男女のもめごとに出くわす。男(ダニエル)が片目の女(マリーナ)を乱暴していたのだ。ふだんはもめごとには関らないラファエルだが、なぜかこのときは放っておけず、彼女を家に連れて帰り、優しく介抱した。

マリーナはだんだんと心開き、身の上話〜孤児院で過ごした幼少時代など〜から始まり、ダニエルとは腐れ縁で、実は彼の子供を宿していること、なのにダニエルは堕ろせ!と言っていることなどを告白する。

マリーナは子供と暮らす静かな生活を夢見ていた。そしてそれはラファエルの夢でもあった。彼は若いころの事故で睾丸を失っていたのだ。ラファエルはマリーナと、生まれてくる子供の面倒を見ると約束、ラファエルは子供に自分の母親と同じ「エストレーリャ」という名前をつけた。

幸せな「家族生活」が数年続いたある日、玄関の扉を乱暴に叩く音がした。そこに立っていたのはダニエル…。3人と娘の奇妙な生活が始まった。

拒もうとしても拒みきれないマリーナ、追い出したくても追い出しきれないラファエル、口では出ていくと言いつつも、いっこうに離れようとしないダニエル…。

娘を交えたふしぎな三角関係を続ける3人だったが、彼らの人生のなかで束の間で、いちばん幸せな時間だったのではないだろうか? ダニエルはラファエルの肉屋を手伝い、持ち前の「男前」で奥さんたちの人気者になる。

しかし幸せは長くは続かない。ダニエルは昔の仲間と銀行強盗するが逮捕され、刑務所に入れられる。そこで彼は不治の病をわずらってしまうのだ。日に日に衰弱していくダニエル、彼を見舞うマリーナも目にみえて衰えていく。ラファエルと娘のエストレーリャが、並んで眠るダニエルとマリーナのお墓を訪れるところでFIN。

<不条理>
とっても暗い映画って感じ??? スペクタクルも大展開もなく、見終ってスカーッとするわけでもない。心臓をグッと手で掴まれ、心にズッシリ重しを置かれたような後味・・・。

男前ダニエルとマリーナは腐れ縁で、絶対に離れられない。肉屋の店主ラファエルは、最初のうちはマリーナとうまくいくと信じていた。でも突然現れたダニエルと、彼を拒めないマリーナの様子を目の当たりにして、ふたりの絆の強さ、自分が入りこむスキがないことを思い知らされる。

ダニエルとマリーナの愛は破滅的で、先が見えない。マリーナはダニエルと別れて、ラファエルと暮らせば、望んでいた静かで幸せな暮らしが続くって、わかっているんだけど、ダニエルへの愛を手放せない。破滅に向かって走り出しているのに、マリーナとダニエルは止まらないし、ラファエルも止めようとしない。「運命」を素直に受け入れていく。

昔見た映画『予告された殺人の記録』(ガルシア=マルケス原作)を思いだした。不条理・・・。予告され、いつでも止められたのに、殺人は行われる。

「ラテン的なあきらめ」「不条理」「運命」「破滅愛」「残されて生きていく哀しみ」…。やっぱ、かなり重いなあ。でもダニエルが肉屋を手伝って働くシーンで、音楽をかけながら、「EL CORTE INGLES みたいだろ」って言ったりするあたり、妙におかしかったりするんだけど…。

そうそう、ダニエル役のジョルディ・ムリャが、アブナイ系のいいオトコで、思わずよだれです。

"EL CORTE INGLES" スペインでいちばん有名なデパート。日本の西武をコピーしたっていうウワサもある。

監督 / 脚本:リカルド・フランコ
ラファエル:アントニオ・レシネス(この作品でゴヤ賞の最優秀主演男優賞を授賞)
マリーナ:マリベル・ベルドゥ(『ベル・エポック』などに出演)
ダニエル:ジョルディ・ムリャ (『ハモン・ハモン』『私の秘密の花』などに出演)


ライブ・フレッシュ

ヒロイン フランチェスカ・ネリ
<あらすじ>

フランコ政権も終焉近い1970年の冬、マドリードの路線バスの車内で、娼婦が男のコを出産。ビクトルと名づけられた彼は、市バスを有名にした功労者として(!)、生涯無料の市バスフリーパスを贈呈された。

時は流れて20年後、すっかり民主主義な世の中になったが、ビクトルはピザ屋のバイトに明け暮れ、パッとしない日々を送っている。そんなある晩、ビクトルはディスコでクールないい女(エレナ)に出会い、童貞に別れを告げる。

これで冴えない毎日ともさよなら・・・と希望に燃えたのも束の間、エレナは彼のことなんか眼中にない。思い切って彼女の部屋を訪問するビクトル、彼女は心待ちにしていた麻薬の売人がやっと来たと勘違いして、ドアを開けちゃったから話はややこしくなった。

間違えに気付き、興奮してピストルを取出すエレナ、銃声、住民の通報で駆け込んできた2人の警官、揉み合うビクトルと警官(ダビッド)、二度めの銃声・・・。

刑務所で服役中のビクトルは、下半身不随になったダビッドが、バルセロナ・パラリンピックに車椅子バスケットの選手として出場、ヒーローになったことを知る。そして観客席にはダビッドの妻となったエレナの姿があったのだ。そしてビクトルの出所の日がやってきた。

監督 ペドロ・アルモドバル
<コメント>

80年代後半から90年代にかけて、アルモドバルにスポッとハマったわたし。でもここ数年の彼は、行き詰まっちゃってる感じが否めない状態だったので、2年ぶりの新作はどうかな? わくわくしながら会場に向かったんだけど・・・。

アルモドバル作品のモチーフって、昔っからずっと変ってない。ゲイ・カルチャーだったり(彼自身ゲイ)、性的に不能な男がビデオを見て<静的に>興奮するような交錯、テレノベラ的な男女の三角四角多角関係や、小道具に使われる車椅子、ねじれた愛情と暴力、ドラッグ、アンダーグラウンドな愉しみ、etc., etc.,…。

70年代の半ばまでフランコ政権下で禁欲生活してたスペイン、そんな時代に青春を送ったアルモドバルの映像は、床を這うような抑圧された欲望をラテン的原色で彩っちゃうな、妙にキッチュな魅力があった。カッコいいだけじゃなく、ちょっとへなちょこで、支離滅裂な性格の主人公たちも含めて・・・ね。それでいて、ストーリー展開はメロドラマ風だったりする。新感覚+メロドラマなストーリーが、アルモドバルの魅力だったと思う。

今回の作品で取り入れているモチーフ…車椅子や、刑務所内部の情景描写って、印象に残るものだけに「またか…」って気がしちゃう。いろいろ新しい試みもしてるんだけど、モチーフの印象深さと、アルモドバルの強烈な個性が、彼の試みを逆に縛りつけ、新しさを封じ込めてる感じがするの。

サイコーなのは、導入部のシーン。 ビクトルの母親役は、あの!ペネロペ・クルースです。バスのなかで出産しちゃったら、市バスのお偉いさんに表彰されることになり、赤ちゃんを抱いて記念写真を撮ったりするあたり、とってもコミカルでグー!

小道具に使われる車椅子 一時期、日本の人気脚本家も「車椅子もの」に凝ってたけど、テレノベラの小道具にも車椅子は欠かせません。そういえば、「刑務所」ってのも、テレノベラには欠かせないエッセンス。

ペネロペ・クルース スペインを代表する若手女優のひとり。ちょっと工藤静香に似てるけど、唇がもっとタラコ。日本で公開された作品では、『ハモン・ハモン』『ベル・エポック』など。96年にスペインに行ったとき、彼女主演の"LA CELESTINA"って歴史物の映画を見ました。中世のサラマンカを舞台にした重厚な映画だったけど、日本では公開されなかった。

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
ビクトル:リベルト・ラバル
ダビッド:ハビエル・バルデム
エレナ:フランチェスカ・ネリ



パハリーコ〜小鳥 PAJARICO

少年マヌとフエンサンタ
『カルメン』『血の婚礼』などで知られる名匠カルロス・サウラ監督の最新作!監督の自伝的要素を盛り込みながら、スペイン南部ムルシア地方の小さな町を舞台に、少年の成長を描く。スペイン的『スタンド・バイ・ミー』?!

<あらすじ>
両親が離婚の協議中の少年マヌは、父方の「大一族」が暮らしている屋敷で3週間を過ごすことになり、いままでに経験したことのない、いろーんなタイプの人々と出会う。

孫のマヌを息子のアントニオだと思い込んでいる痴呆気味の祖父、絵を通じて世の中の美しさを教えるフアン叔父さん、彼の娘で霊感を持つ少女フエンサンタ、いつも他人を監視しているマルガリータ叔母さん。

医者のエミリオ伯父さんの娘ロリは薬物中毒の男とつきあい、彼女もクスリに手を出しはじめている。チェロと音楽を愛するフェルナンド伯父さんは実はゲイ。ある日、フエンサンタに誘われて地下室に行くと、フェルナンドが「彼氏」と愛を交わしまくっていた。フエンサンタと「冒険」を重ね、彼女に淡い恋心を抱いていくマヌだったが…。

<コメント>
この映画の舞台となったムルシア地方は、スペイン南東部にあり、温暖な気候、カルロス・サウラ監督の父方の一族の出身地だそう。のんびりした田園風景が心を和ませてくれる。全然派手さはない映画だけど、登場人物たちも魅力的、見終わって暖かさが残った。

美しい少女と出会い、彼女に翻弄されつつも、大人の世界を覗き見、大人の世界で事件が起こり、少年も成長していく…。万国共通の甘酸っぱい系ですが、ゲイの伯父さんのエピソードが出てくるあたり、やっぱスペイン。

カルロス・サウラ監督
特別ゲストで来日したカルロス・サウラ監督は、いかにもインテリって感じのカッコいいおじいちゃんで(1932年生まれ)、ユーモアのセンスに溢れてた。彼は3度め(2度め?)の結婚をしたばかりで、娘がまだ2〜3歳なんだって! そういうことも、彼の創作意欲に源になってるのね。穏やかそうに見えても、やっぱ、ラテンな男だ…。

サウラ監督の映画では、『愛よりも非情』(1993)が好き!主演は、ブレークするまえのアントニオ・バンデラス、相手役はフランチェスカ・ネリ。彼女も最近けっこう売れていて、アルモドバル監督最新作『ライブ・フレッシュ』に出演してる。

『愛よりも非情』は、新聞記者(アントニオ)と、サーカスのスター(フランチェスカ)の一筋縄じゃいけない愛の物語。主題歌「死ぬほど愛して」が印象的だった。絶対結ばれない愛の予感がするんだわ・・・。大きなビデオ屋にあります。

 

おわりに

『スペイン映画祭』では、計7本のスペイン映画が上映されたけど、一般公開されたのは、アルモドバルの『ライブ・フレッシュ』だけ。スペイン映画は商業的にむずかしい…。

で、今にして思うと『ハバナから来た娘』を見逃したのは、返す返すも残念。満員で入れなかったんだわ・・・。

この映画の脚本は『苺とチョコレート』の原作・脚本で知られるセネル・パス、主演はビオレータ・ロドリゲス(キューバのフォーク系大歌手シルビオ・ロドリゲスの娘らしい)。スペインの新聞"EL PAIS"でも絶賛された話題の映画だった。キューバを離れ、マドリードで暮らす3姉妹の恋と夢と現実と…って感じのストーリー。

会場だったシネ・ヴィヴァン六本木も閉鎖になり、スペイン映画祭も立ち消えになっちゃったみたい。こんなに情報が溢れる世の中なのに、スペインやヨーロッパ映画を見る機会は、全然増えてない。むしろ減ってるように感じるのは。不況でスポンサーがつきにくくなったせい?

アメリカ映画でもいい映画はいっぱいある。でもアメリカ映画しか見れない世の中になっちゃったらつまんない。いろんな国のいろんな映画をみんなが見れば、製作者たちにもお金が入り、スポンサーもつき、もっともっといい映画を作ってくれるはず!

インターネットで、日本に入ってこない映画が見れるようになるといいな。

 

関連リンク 予告された殺人の記録 テレノベラ 苺とチョコレート 


旅行して、どんな人たちと会った? どんな体験をした? 何を感じた?
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