ホームアジアのちからだ、マレーシア

もっとしなやかに、もっとしたたかに


その1. 貸し自転車屋のかわいい強欲ババア パンコール島

うっそうとした広い敷地、レストランのようだが、まだ朝早いせいか客の姿はなく、でもズラッと自転車は並んでいる。

「自転車借りたいんですけど…」

受付にいた女の人たちは、よくわからないみたいで、「お客さんが来た」と誰かに電話していた。そして、しばらくして、バイクに乗って「彼女」がやってきたのだ。どうやら華僑の経営。

「1時間だったらRM2.50(82.5円)、1日(8時間)だったらRM12(396円)。さあ、どうする?借りるか?」

彼女ははっきり、キッパリ、きっちり喋ったが、念のために尋ねてみた。

「ディスカウントしてくれない?」

「何を言ってるんだ。もうすでにRM8もディスカウントしてるじゃないか。これ以上はできない」

ホントは彼女、「何を言ってるんだ」などとは言っていない。でもとっても明快に喋るせいか、言葉の外に含まれている気持ちまで聞こえてしまうのだ。

これ以上、食いついても時間のムダ、1日RM12で借りることにした。

「あと、デポジットがRM8必要だ。つまりあなたは今、RM20支払うのだ。そして自転車を返したとき、わたしはあなたにRM8を返す」

「領収書は?」

「そんなものは出さない。自転車を返したら、デポジットは必ず返す。わたしの言葉とわたしの顔、それが領収書だ」

ホントは彼女、「そんなものは出さない、デポジットは必ず返す」と言っただけ。でも彼女の言葉と表情が、「わたしの顔が領収書」と言っていたのである。

言葉と顔を信頼することにして、自転車選びに取りかかった。経験からいって、こういう人が言った言葉に二言はなく、領収書なんかよりもずっと効果があったりするのだ。

「どうだ、この自転車はいいぞ」

彼女がお薦めしてくれた自転車は、けっこう乗り心地がよかったが、念のため他のも試してみたいと言ってみた。でもやっぱり彼女が薦めてくれたほうが、ちゃんと空気も入っていたし、乗りやすかった。

「やっぱ、最初のにする」

「そうだろう、そうだろう、わたしはあなたに一番いい自転車を薦めてあげたのだから」

「カッカッカッ!!!」と高らかに笑ったような気がしたが、空耳かもしれない。懐から鍵を取り出し、鍵の掛けかたを説明してくれた。

「置いておくときには、必ず鍵をかけるように」

「夕方6時までには、必ず戻ってくるのだぞ」

彼女は何度も念を押し、そうして自転車と過ごす1日が始まった。

夕方、6時ちょっとまえ。わたしは再び貸し自転車屋に戻ってきた。朝と同じように、受付の女性がどこかに電話をすると、ほどなく「彼女」がやってきた。

わたし「自転車、返しにきたよ」

彼女「ああそうかい、で、わたしの鍵はどこ?」

わたし「ほーら、ここよ」

鍵をフリフリすると、彼女は満足そうに肯いた。

「それじゃあ、デポジットを返してあげよう。ほーら、RM8(264円)だ」

帰り際、ちょっと引き止めるように彼女が言った。

「日本人の大学生の男のコ2人、この島に来てるの知ってるかい?」

知らないと答えると、「パラダイス・ビレッジに泊まってるよ。さっき、自転車を借りてった」と教えてくれた。

理由はよくわからないけど、わたしは彼女が好きになっていた。で、妙なくらい強い確信を持って、彼女も同じような気持ちでいるように感じたのだ。

6時を過ぎてもまだまだ暑い。熱帯雨林が両脇に茂る舗装された道をホテルに向かって歩いていたら、クラクションの音が聞こえた。

振り向くと、彼女、貸し自転車屋の「かわいい、かわいい強欲ババア」が自転車の鍵を振りながら、豪快にニカッと笑った。

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その2. 何でこうなるんだろう マラッカ

オープンエア中華大衆食堂で。メニューはすべて北京語だったので、食堂の女主人(らしき人)と相談して、彼女お薦めの「エビ炒め」を頼むことにした。それからひたすら「エビ炒め」を待つこと40分くらい? 空腹で気が遠くなるほど待ったけど、エビ炒めは来ない。

待ってよかった、やっと来たエビ炒め!「フシギの油」で炒めた大エビに肉味噌のようなものがからまりついていて、何ともうまい。

あんまりおいしかったので、ゴハンをおかわりしたら、今度はゴハンが来ない。わたしのテーブルを担当している女主人はどこかへ行ってしまって戻ってこない。通りがかったウェイトレスに「あたしのゴハンは?」と尋ねたが、「あなたのゴハンの担当は、ウチのボスなのよ」というような仕草をしながら遠ざかってしまった。結局、ほどなくゴハンは来たけど、エビ炒めならまだしも、ゴハンまで何でこんなに遅いの?

でも、ホントにおいしいエビ炒めをゴハン2杯と食べ尽くしたらとっても満足、すっかり幸せな気分になりました。

「とってもおいしかった。おいしいから繁盛してるのね」

通りがかった女主人にちょっとお世辞を言ってみた。で、なんだかんだ話しているうちに、「あなたも北京語習ったらどう?」なんて言われちゃって、わたしも"I will try..."なんて答えちゃったりして、どうしてこうなるの?

ホントは文句の一つも言いたいところなのに、逆に「北京語習え」と言われて、「そうか、北京語習っちゃおうかな」なんて、本気で考えちゃう自分がかわいいというか、情けないというか。でも習うんなら響きがいいから、広東語のほうがいいな。

シンガポールで本屋に行ったら、中国語の本がたくさん並んでいた。漢字を使う日本人から見てもむずかしそうな漢字文化を、国の外で、ちゃんとちゃんと維持してるなんて、ホントに感心。21世紀は中国人の世紀になるでしょう。

関連リンク 大衆食堂とエビ炒め

*シンガポールドル(S$)は78円、マレーシアリンギット(RM)は33円で計算しています。



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