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10/18/1999 |
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パナマ完結篇 パナマなひとびと |
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これはホテルの前や空港で客待ちしてるタクシーのお値段。それなら!と路上で拾ってみたら、10〜15分くらい乗って1.5ドルとかそんなもん。うん、適正価格だ。パナマ市って地下鉄ないし、バスはかなりクレイジーらしいよ。「とんでもない運転をするんだ」って、ドライバーくんが言ってた。彼自身、かなりスリリングな運転するからね、推して知るべし…か。このあたりのバスって、アフリカ的なプリミティブ・アートっぽく塗られてて、すっごくカッコはいいけど…。 <タクシードライバー
その1> 「それなら空港に迎えに行くから、パナマ市半日観光しようよ」 「半日でいくら???」 「1時間8ドルだよ」 するってえと、5時間で40ドル。荷物持ってるから、空港の前で「正規のタクシー」に乗ることになるだろう。そしたら25ドルは取られるし…と、珍しくササっと計算(算数)し、彼のオファーを受け入れることにした。 「じゃ、そうしようか」 すると彼、またまた運転しながら、真後ろのわたしのほうを向いて言う。 「じゃ、これがボクのタクシーの番号だから、絶対なくしちゃ…」 「あああ、危ない!」 信号で前のクルマが停まった! あっ、あと50センチ…。でも彼って、反射神経が非常によい。あと10センチのところで停まって、「NO PASA NADA(どってことないよ)」と笑ってごまかし、「で、これがボクのタクシー番号だから、なくさないでね」と話を戻した。何言ってんのよ! あと1秒遅かったら、確実にぶつかってたんだから…。あきれた。 4日後、彼はちゃ〜んと空港で待っていた。突き抜けるような日本晴れ…、パナマ晴れで、すっかり気持ちも高揚。小学生の遠足状態で、パナマ市の観光地をあちこち巡った。パナマ市の半日観光は、到着した次の日に済ませてたけど、もっとよく見たかったところとか、写真撮りそこなったなったところとか、あったしね。 パナマで最近流行ってる音楽を買いたい!って言ったら、知り合いのレコード屋に連れてってくれて、カセット3本ご購入。 「クルマのなかで聴こうよ」と言われ、すっかりデート状態ね。 クルマに乗ると、彼はゴソゴソと何かやり始めた。 「何してるの?」 「ヘッドクリーニングしてるんだ。いい音楽は、いい音で聴かないとね」 ヘッドクリーニング??? そんな几帳面な行為が、ここに存在していたとは…。そう、徐々に、彼は「意外と几帳面」だってことが、わかってくるの。 運河博物館では、展示内容を食い入るように見つめ、係員を質問攻めにした。どうやら、観光ガイドもできるタクシードライバーをめざし、今後の営業活動に役立てようとしているらしい。 この日のツアーで一番印象に残ったのは、サンフェリペ(SAN FELIPE)っていう下町…。剥げかかった、色とりどりのペンキに塗られた港町風の建物たち、歴史はありそうだけどさびれてる、セントラルという名前のホテル、椅子に座ってぼーとしてる老人たち、開け放された窓に揺れるカーテン、薄暗い雑貨屋で働く華僑たち、お昼どきに漂ってくる揚げ物の匂い、ソファー再生工場に積み上げられた布の山、真っ白く塗られた大統領官邸、国立劇場や美術館、ノリエガ将軍の時代にアメリカに爆撃されたという建物は、崩れかけたまま残っている。拡がる青と緑の海、白い砂、廃虚のようなアーチつきの古い建物…。 昔はこのあたりが街の中心だったらしい。終わっちゃった栄華と、大統領官邸や国立劇場などの現在進行形が、不思議なコントラストを描いてる。 さてさて、「彼氏」「彼女」状態で半日を過ごしたわたしたちだったが、最後の最後、料金を払うときになって、バトルがやってきそうになった。 1時間8ドルX5時間=40ドル に加えて、14ドルの通行料金が必要だって、彼は主張する。「そんなことは聞いてない」「でもね、キマリなんだよね」「どんなキマリよ」。 とバトルの序章に入ったとき、わたしはあることを思い出した。「ね、カセット返してくれる? 忘れるといけないから」。そう、さっきのカセット、彼のクルマのデッキに入ったままだったの。 「巻き戻す?」几帳面な彼は尋ねる。「そうね、お願い」。 そして再び、わたしたちはバトルに戻った。「だから、14ドルの通行料金なんて、聞いてないってば」「だけどキマリだからさ、14ドル加えて、54ドルだよ」「そんな…」 そうこうしてるうちにテープはアタマまで巻き戻され、自動的に再生され始めた。流れてくる明るい音楽…。 「あっ、いけない」再び、テープを巻き戻す彼。 「だから14ドルなんて聞いてないのよ」「だけどキマリだから」 またまた巻き戻されたテープが再生された…。何度かこんなことを繰り返し、ついに!彼は指でテープを巻き戻しはじめた。う〜ん、これは几帳面なのか、どんぶりなのか…。そんな彼の姿を見ているうちに、なんだか何もかもどうでもよくなってきたわたし…。 「そしたらさ、50ドルでどう?」と提案してみた。 「損しちゃうなあ。でも、まあいいか。じゃあ、よい旅を!」 彼はあっさり受け入れて、ニカッと笑った。ホント、憎めない。彼、今ごろ、どうしているかしら。 <タクシードライバー
その2> そのときもパナマ市内から空港へ向かってた。朝7時の幹線道路は大渋滞。空港へ向かう大きな道は、まだ1本しかないという(現在建設中)。少しでも動くんなら希望もあるけど、1度停まったら、10分以上そのまんま、1メートルも動かない。ドライバーくんは辛抱強く待っていたが、遂に意を決し、大きくハンドルを切り、裏道大作戦を開始した。 住宅街を疾風のように駆け抜け、遅いクルマには食らいつくように接近しながらパッシングを繰り返し、追い抜く。その間、ずーっと無言。マイク・タイソンのような彼もまた、すばらしく反射神経がよい。ま、かなりスリリングだったけど、何とか空港の近くまでたどり着いた。 するとずーっと黙っていた彼が、いきなり後ろを向き、オリンピックの金メダリストのような勝利の笑顔で言った。 「MUCHO TRAFICO(すっごい渋滞)」 その声は、まさに高見山。優勝インタビューで感想を尋ねられ、「うれしいっす」と、照れながら簡潔に答えたときのような、すがすがしさだったのだ。
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