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7/14/2003

『トーク・トゥ・ハー』渾身の力をこめてお薦め!
「愛とは何か」。永遠の問いについてのアルモドバル流黙示録。

2002年 スペイン (原題 HABLE CON ELLA ) 

トーク・トゥ・ハー 写真

photo: 『トーク・トゥ・ハー』劇場販売パンフレットより


15年間、母の介護に専念したベニグノ(ハビエル・カマラ)は、家の向いにあるバレエ・スタジオの練習生アリシア(レオノール・ワトリング)にひとめ惚れしてしまう。でも、彼の「愛」は、まっすぐにはいかない。アリシアに受け入れられないまま、時はたつ。が、しばらくして、アリシアは交通事故に遭い、看護士になった彼の病院で手当てを受けることになる。意識を持たないアリシアは、ベニグノの「手当て」を受け続けることになるのだ。

一方、女性闘牛士リディア(ロサリオ・フローレス)は、『神の子』の異名を取る闘牛士とのせつない関係をマスコミに追及され、追い詰められる。そんなとき、取材のため訪れた記者マルコ(ダリオ・グランディネッティ)と出会い、束の間、静かな日々を過ごす。しかし、彼女は、『神の子』への想いを断ち切ってはいなかった。揺れ続けた末に結論を出した彼女に襲いかかったのは、1頭の闘牛・・・。

意識を持たないふたりの女性は、『森』という名の病院で眠る。アリシアは『意識を持たない』存在を受け入れるベニグノの献身的な介護を受けながら。そして、リディアは、『意識を取り戻してほしい』と願い続けるマルコの傍らで。医者はマルコに言う。「医学的には彼女が回復する可能性はない。でも、医学的に回復する可能性がない患者が意識を取り戻した例はある」。ベニグノは、マルコに言う。「彼女に話しかけてみて。女性の脳は神秘的だから」。

話しかけられているアリシアと、そうでないリディア。まっすぐではないにしても、希望を持つベニグノと、悲嘆に暮れるマルコ。『愛』の姿は、ある意味で、対極をおりなす。そして、突然起こったある事件が『森』を揺るがし、主人公たちを思いもかけない方向へと導いていく・・・。



ないアタマを振りしぼって、この映画についていろいろ書くことが、すごく無意味なことに思えてしかたがない。見終わってからずーっと、放心状態だった。音楽を聞く気にもならなかった。でも、どうしても現実に戻らなくちゃいけなくなって、ウォークマンのスイッチを入れた。見終わって、何日かたっても、ふとしたとき、地下鉄のホームを歩いているとき、手を洗っているとき、クルマに乗っているとき、ゴハンを食べているとき、お手洗いでも、この映画の「どこかの部分」が蘇ってきて、こみあげる。

「どこかの部分」とは何なのだろう??? 例えばそれは、ベニグノのまっすぐにいかない『愛』の姿なのかもしれないし、意識がなくても、スベスベ、ツヤツヤなアリシアの眠る顔なのかもしれない。あるいは、『奇跡』は起こりうるということ??? 

この映画は、ひたひたと、静かに、あたたかさを連れてこころにしみこんでいく。たとえ、悲劇が待ち受けていたとしても・・・。

意識を持たないアリシアを介護し続けるベニグノのキャラは、ある意味、かなりアブ・ノーマル。なのに、ストーカー的なこわさを感じさせないのは、天然系キャラのせい? それとも、あまりにも彼が純粋で一途だから??? わずかに現実に存在したベニグノとアリシアとの会話、ベニグノのすっとぼけ加減にアルモドバル流のユーモアがひょこっと顔を出して、なごんだ。

アルモドバルは、彼の世界を保ったままで、どんどん深みを増していく、彼にしかできないやり方で、ユーモアもそのままに。

この映画を見ながら、スガ・シカオの歌詞が、ときどきアタマのなかをグルグルまわった。『ココニイルコト』と『黄金の月』。想いがゆがんでも、ひずんでも、届けようとすること。想いを持っているということ。

ところで、アリシア役を演じているのは、レオノール・ワトリングという女優さん。スペイン人の名前じゃないので、ちょっとウェブでチェックしてみたら、お母さんが英国人だとか・・・。で、彼女、日本でも公開された『マルティナは海』(『ハモン・ハモン』など手がけたビガス・ルナ監督)で、主演していました。共演はホルヘ・モジャ。『エストレーリャ』で、陥ちていく男を演じたのが、すごーく印象的だった俳優さん。おっといけない見逃してた・・・。

彼女の最新作 『マイ・マザー・ライクス・ウーマン』は、青山スパイラルホールで行われる「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」のクロージング作品として、上映されました。

そして、野性的でカッコいい!女性闘牛士リディア役は、ロサリオ・フローレス。フラメンコ系歌手+ダンサー+女優の故ローラ・フローレスの娘さんだそうです。ローラ・フローレスは、1923年生まれ、1930年代からスペイン・ショービジネス界で活躍した有名なアーティスト。むかーしスペインで買ったCDがウチにあるんだよね。ほとんど聞いたことなかったんだけど、試しに聞いてみたら、切れ味のいいフラメンコ系。小股が切れ上がってて、小気味いい!

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